◆◆第一章◆◆ 「違和感」
「どうしてこうなっちゃったんだろう…」
詩織は一人になったリビングで、ため息とともにこう呟いた。
「どこで間違えたのかなぁ…」
嵐が去ったリビングは、投げつけたテキストや床に落ちたカップなどで、後片付けが思いやられる惨状だった…
◇ ◇
慎太郎は小学4年生になったタイミングで、中学受験の名門と言われる日暮里ゼミナールに通い始めた。当初、岩屋家としてはあまり中学受験をさせるつもりはなかった。それでも、お決まりのタイミングで受験生活を始めることになったのは、千葉から東京に引っ越してきて、その受験率の高さに驚いたというのもあるのだが、何より慎太郎自身が受験したいと言い出したのが理由だった。
「だって、光ちゃんも塾に行くって言うんだぜ。ボクだって行きたいよ。」
引っ越してきて以来の仲良しである光輝くんも中学受験組。彼が行くというので、塾は日暮里ゼミナールに決めたのだが、盛栄大附属中を狙う光輝くんはSクラスの選抜テストに合格している。慎太郎と言えば、下から2番目のCクラス。偶然通う曜日も時間も同じだが、スタートの時点で大きな差があるのは目に見えていた。
「別にいいじゃないか。全員がトップを目指す必要なんてないだろ?」
夫の啓輔は、自身がエスカレーター式のお坊ちゃん学校出身なので、あまりそういう意味での上昇志向はない。むしろ、受験は反対していたくらいで、小学生のうちはノビノビと外で遊んでいるくらいがちょうどいいと言っていた。
決して詩織も慎太郎をトップ校に入れたいと思っていたわけではなかった。行けるところまで行って、おさまる所があればそれでいい、そんなつもりで始めた中学受験だった。(つづく)
《続きはKindle「転塾」にて!》
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※登場する人物・団体名などは全てフィクションです。
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