もう20年近く前のこと。ですから、この塾じゃなくて、千葉県で塾を運営していた頃のお話です。
とある母娘が訪ねて来ました。私立の、比較的偏差値の高い学校の子で、成績が伸び悩んでいるという話だったと記憶しています。
そこで塾の説明をしたところ、怪訝そうな顔。
その頃の私の塾は、1対10くらいで、個別指導といいながら、学習管理をするタイプの塾。積極的に映像授業を取り入れたりしていましたが、今考えると相当先進的な指導をしていました。でも、その頃は本当に理解されるのに苦労しました。
いろいろ話を聞いて、結局、
「お金払って自習するんじゃ意味がない」
と言われました。あー、やっぱり理解できないか…
そう思って諦めました。その子も体験授業もせず、親御さんもそのまま帰って行きました。
ところが、その子。何と、また来たんです。やっぱり、あの塾で成績が上がったという友達の話を聞いたのだそうです。だから、私の聞かなかった何かがあるに違いないと思ってまた来たんでしょう。でもいくら聞かれても以前と何の違いもないので、2回目も同じ話を聞くことになります。結局また、同じことを言って去っていきました。何だったんだろう?
塾にお金を払っている以上、「先生を働かせないと意味がない」「目一杯先生を使わないともったいない」と思っている子はかなり多いもの。いや、実はそういう親御さんがメチャクチャ多いんですよね。
こうなると、もう目的が変わってしまって、勉強がわかるようになるとか、成績が上がるとか、そういうことじゃなくなって、どれほど先生をこき使うかで満足度が変わってくるようなケースも出てくるわけです。先生を質問攻めにしてやったから、今日は元を取ったな!なんて考えている子もいるようです。
自習も同じことです。
例えば、無料で使える自習室に質問対応コーナーがあると、そこを占領してしまえば格安で個別指導と同じことが出来ると思って質問攻めにしている子を見たことがありますが、その実その子は全くと言っていいほど成績が伸びないものです。
先生を働かせること、質問をして教えさせる、授業をさせることで「勉強した」と思って満足する子、質問攻めをする子は大抵成績が伸びない子です。自分で考える前に解説を聞きに行ってしまうので、自分の能力が上がる前に答えを聞いてしまっているのです。つまり問題集の問題も解かないでいきなり解答を見ているのと同じことです。
特に、偏差値60以下の子がこれをやると全くダメです。
偏差値60くらいまでって、自分でやりゃ出来るようなことが出来ていないからその偏差値なわけで、自助努力の範囲なんです。だから基礎問題を徹底することでこのあたりまでは行けるワケです。質問も大してせずに、初歩的な学習を終えるだけで成績はある程度取れるはずです。
ところが。60を超えてくると質問は多くなってくるものなのです。
そもそも質問の質が変わってくるし、質問のしかたも上手になり、有効活用できるようになっていますから、ちょっと様子が変わってきます。本当は個別指導で、優秀な先生たちが生徒の質問に答えまくってくれるというのは、偏差値60以上の優秀な子たちのためのシステムなんですよね。
偏差値が60以下の子は、そもそも授業をきちんと聞く、ノートを取ったり、集中して先生の話を聞いて理解する、予め解いてきた問題をベースに、間違っていたところを授業内で解決するといった、学習の基本中の基本をきちんと身につけることが出来ればいいんです。
それが出来ない子に個別指導で、なおかつ質問に答えまくって全部教えちゃうから全然伸びないのです。だって、全部聞いちゃうわけですから。
考えもしないし、あーでもないこーでもないって悩みもせず、先週やったテキストの説明を読み直すこともなく、取ったノートを見返すこともなく、「わかんないんで、ここ教えてくださーい!」って言って、先生に説明させて満足する。完全に成績上がらないパターンですよね?
「先生、この単語の意味何ですか?」「これどうやって解くんですか?」「考えてもわからなかったです!」という質問は、ほぼ自助努力なしの、いくら繰り返しても成長が見られない典型的なパターンです。
桜学舎では先生たちに「教えすぎるな」と常に言っています。10の内容なら、3まで言って様子を見る、まだ分からなければ5まで言ってまた考えさせる、そういう「考える」という作業を入れろと常に言っています。
私の口癖は、
「考えるのはお前の仕事だよ」
です。教えてもらわなければ出来ないと思っている方は、もうそれでいいです。ずっと教えてもらってればいいんじゃないですか? ずっと授業を受け続け、どんどん塾の授業を増やし続け、個別指導も付けて、家庭教師も付けて、ずっと教えてもらっていればいいのです。でも、成績は上がらないですからね。残念ながら。
「パパ塾・ママ塾」も、中学受験生などにはよく見られますが、もちろん親が教えれば、親御さんの偏差値はガンガン上がります。うなぎのぼり。でも親御さんの偏差値が上がっても、反比例するように子どもの偏差値はダダ下がりです。
以前、お勉強の「下ごしらえ」を全部やってあげないと勉強できないという子がいましたが、残念ながらできるようにはなりませんでした。計算問題も、途中式の書き出しまで親の字が書いてあるノートを見たこともありますが、やっぱりほとんど勉強は出来るようになっていませんでした。親子で頑張るというのは、「甘やかす」ということとは全く別です。むしろ「鍛える」ことが重要で、甘っちょろいこと言ってんな!と訓練しなければいけないのです。
学校や塾の先生たちが何故教科の問題が解けるようになっているか。答えは簡単。いつも教えているからです。繰り返しているからです。
お金払って、自習して、成績上がって、合格したら最高じゃないですかね。
いつまでも塾がないと勉強できないような子を育てちゃ絶対にダメですからね。立派に独り立ちできる大人を育てることが「教育」であり、その一つの試練が「受験」だと捉えれば、何をどうしなければいけないのかが判断できるかと思います。
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