「終りに見た街」

作家の山田太一氏が亡くなったそうです。89歳。老衰だそうです。浅草生まれだったんですね。

「男たちの旅路」「岸辺のアルバム」はやや時代がズレていて、再放送か何かで少しかすっている程度なのですが、やっぱり「ふぞろいの林檎たち」は中高くらいだったので話題にはなっていました。

私はその中で、「終りに見た街」という作品に出会いました。高校1年生くらいだったはず。たまたま、それも夕方の再放送で見た単発ドラマでした。確か、お父さんは細川俊之さん、お母さんが中村晃子さん、敏夫さんはなべおさみさんだったと思います。

とある放送作家とその家族が突然昭和19年にタイムスリップするというSF小説なのですが、その社会性、メッセージの強さに、こんなドラマがあるんだ、こんなすごい小説があるんだ!と感動して、すぐに本屋に走り、ハシゴして何とか中公文庫で見つけた記憶があります。

[以下ネタバレご容赦]

反抗期の息子がタイムスリップ後に失踪し、それでも何とか一家と一緒にタイムスリップしてしまった敏夫さんたちは、戦中の時代を生き抜こうとします。

が、物語の最後に失踪した息子が帰ってきます。帝国軍に入隊し、その時代の人間そのものになって。目を覚ませと諭すところへ閃光が走り、気づけば廃墟へまたタイムスリップ。

遠くに折れた東京タワーが見えるという結末。息絶え絶えに水を求める人に、「今何年ですか?」と聞くと、「センキュウヒャク…」で絶命というラストでした。

TVドラマを見て、このラストに鳥肌が立ちました。

本を買って何度も何度も読み返し、単なる反戦の物語ではなく、戦中の全体主義の怖さ、でも現代人のおめでたい平和主義への皮肉、核戦争の恐怖、いろんな思いが読み取れて、本当に色々なことを考えさせられました。

高校2年生の文化祭で、この本をベースにした映画を撮りましたが、正直難しくて不作(笑) それがあまりに悔しくて、受験生にもかかわらず3年生の時に友人を誘って文化祭に有志参加、演劇でこの手の物語を作り演じました。後にも先にも、演劇なんてこの時1回しかやったことがありません。

こんなことをやってしまったので、大学入試は現役は無理だろうなと覚悟したので、その名も「劇団浪人業」と名乗りました(笑)

友人の親からはかなり恨まれました(笑)母も嫌味を言われたことがあるそうです。ですが皆、付属の明治学院大学に行っているので、現役で進学。その中では私だけが浪人、代々木ゼミナールに晴れて入学となりましたが。

そんなことで、自分の思いを完遂したはいいけど、「やっちまったなぁ」と思っていたら、文化祭後の礼拝(キリスト教系だったので!)で、牧師の陶山先生が私たちの演劇の内容を取り上げ、とても褒めてくださいました。登場人物がみんな悪魔だったので(笑)、怒られるのかと思ったら、よく考えられていて、メッセージ性も強かったと、学年の礼拝で取り上げてくださったのです。

報われた感が本当にありました。陶山先生の教科書「イエスを訪ねて」や高校時代の聖書・讃美歌はいまだに大事に取ってあります。実は公表できないのですが(笑)、それから25年も後に陶山先生とは私の人生を変える大きなご縁もあって、本当に驚きました…

私に大きな大きな影響を与え、高校時代に買った文庫本を大事に大事に取ってある山田太一氏の「終りに見た街」 その山田氏の逝去は大変悲しいけれど、老衰で亡くなったというのは良かったなぁと、一ファンとして思っています。

謹んでご冥福をお祈りします。ありがとうございました。

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