ジェノサイドとは「大量虐殺」という意味。その衝撃的なタイトルからして、「きっと血なまぐさい物語なんだろう」と思っていました。以前から書店で平積みになっていたので気にはなっていたのですが、その分厚さとタイトルからして何となく手を出さずにいました。
買ってしまうきっかけになったのは、本屋大賞。今年度のノミネート作品になっていたので、「そんなに面白いのなら…」とGW用に買ってしまいました。
私はふだんエンターテイメント作品はあまり読みません。空想の世界を楽しむ余裕がまだ無いというか、仕事直結の実用書を大量に読みたいという欲求が強いのです。推理小説やSFなどは、確かに楽しく、夢中になれるのですが、時間の浪費という後悔も多少伴うので、あまり読まない傾向にあります。ですから、仕事を離れるGWになら…と思って買いました。
結論から言うと、GWまで待てずに読み始めてしまい、2晩で大半を読み、GW初日には既に読了。これは本当に面白かった!ホント、毎晩夢中で読みました。590ページの大作ですが、長さを感じさせない興奮がありました。
精緻に研究し尽くされた薬学的知識(作者は相当勉強したものと思われます)に裏打ちされた説得力、日本、アメリカ、コンゴの3つの国で同時に物語が展開するスケール感、そして何より、人知を超えた生命体の誕生というSF感たっぷりの物語。実にワクワクします。
それに加え、人間の愚かさやアフリカの発展途上国における内紛・内戦の現実もリアルに感じることが出来ました。
タイトルにある「ジェノサイド(大量虐殺)」は、いまだ現実としてアフリカを中心とした世界に厳として存在しています。
1994年のルワンダ紛争における大量虐殺が有名で、「ホテル・ルワンダ」「ルワンダの涙」など映画化もされました。この時の紛争では、およそ50万人から100万人の間、すなわちルワンダ全国民の10%から20%の間と推測されています。血で血を洗う大量殺戮が行われたのは周知の事実ですが、その残虐性は発展途上・未開の国であるがゆえに過酷を極めたと言います。とてもまともな文明を持った人間であれば直視できないものだとも言えます。
もう一つ、21世紀最悪の人道危機と言われるダルフール紛争。これも知らない中高生[大学生]も本当に多いものです。この紛争では2003年2月の衝突以降、正確な数字は不明ですが、およそ40万人程度が既に殺害され、現在も進行中。国連事務総長の公式統括によれば、1956年の独立以来(1972年から1983年の11年間を除く)200万人の死者が出て、400万人が家を追われ、60万人の難民が発生しているとされており、現在も進行中。
戦場カメラマンの渡辺陽一氏は、戦場に行き続けるきっかけとなったのが「少年兵」との出会いだったと言います。まだ小学生や中学生のような子どもたちが戦場に駆り出され、大人の手先となって命を懸けて銃を放っている姿は見るに堪えないものがありますし、想像するだけでおかしくなりそうです。
彼らの多くは、自らの命を助ける代わりに、自らの手で両親や兄弟を殺害することを強要され、幼い心が壊れてしまいます。そういう状態で民兵組織などにさらわれ、Killing Machineに育て上げられるのです。
この作品の中にも、そんな少年兵と戦わざるを得ない場面が出てきます。人の命を何とも思わなくなるよう教育されてきた少年兵たちの怖さ、そして応戦する味方の兵士もまた、人を殺すという感覚が麻痺してくる様子が見事に描かれています。
人知を超えた生命体は、そんな人間の愚かな行為を蔑んだ目で見ていますし、それを学習し、人間という動物がいかなるものかを理解していくことになります。
生物的に劣った種が、優れた種を支配する例は無いという言葉がとても印象に残りました。作中に出てくる人知を超えた生命体の数はわずかです。しかし、読後、それが後の世の地球上の支配者になることは容易に想像が出来ますし、人間が万物の霊長ではなくなることも暗示しています。つまり、この作品で作者が最も訴えたかったのは、人類批判なのではないかと思えるようになりました。世界中で起こる愚かな紛争や謀略。欺瞞に満ちた世界平和や、自己中心・自国中心的な詭弁の蓄積。こういうものの間で、小さな命がいとも簡単に捨てられていくことの傲慢さ。こういったものに対する絶望感から、筆者は新しい人類の誕生を期待し、この作品を書くきっかけとしたのではないかと思いました。
物語としての完成度の高さ、その緻密さはエンターテイメントとしてかなり上級だと思いますし、何より文章がしっかりしているので、安定感があります。その上で、非常に考えさせられるところがありました。知的好奇心も十分刺激される秀作だと私は感じます。
しかし、分厚いですからね。どうぞ覚悟して(笑)ご一読頂くことをお勧めします!
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