日本という国は、これからどうなっていくのか。とても気になる昨今。先の衆議院議員選挙においても、一気に舵を切ってしまう日本人の特質はまたもや顕著になりました。極端なのですね、日本人は。これから先、日本はどちらを向いて進んでいくのか、大変不透明な世界がこれから我々を待ち構えている気がしてなりません。
小泉新自由主義のあの時代。何でも民営化し、競争させるのだという風潮でした。競争の無い社会は腐るのだと。確かに一理あると思われましたが、それと同時に「勝ち組」「負け組」がハッキリしてしまったことも否めません。ホリエモンや村上ファンドに代表されるような、巨額の「あぶく銭」を手にした一部の人々がいた反面、雇用の流動化の名のもとに非正規雇用の若者が大量に出、それが今や「正社員になれない労働者」として大問題になっています。
決して、年功序列・終身雇用という日本型雇用システムが良いとは言いません。しかし、人間は年をとる。体力的に劣るようになり、鈍くもなります。若者と同じ土俵に立って働くということが出来ない様にもなってきます。子育てや親の介護など、様々な事情も歳を重ねれば出てきますから、何のしがらみも責任もなく1日中仕事に没頭できる若者とは事情が大きく異なります。
私は、「実力主義」「能力主義」などを標榜し、むやみやたらに競争原理を働かせようとする考え方は、横暴な「ガキの論理」だと思っています。実は私もかつてはそうでした。授業も下手で、生徒の心もつかめず、実力不足の教室長にくらべ、自分は生徒の人気もあり、授業も面白い… 何で彼の方が給料が高く、評価もされるのだろう… もちろんこれは私のステキな勘違いであり、若さゆえに思い上がりにすぎなかったことは後々分かるのですが、同じような思考回路だなぁ…と、あの時代にはびこった考え方には思い当たるフシがあるのです。
ドラえもんに出てくる「のび太」など、負け組の象徴だと若いころは思っていました。自分では何も出来ず、依存心だけは高く、常に誰かに助けてもらおうとする生き方は情けないと思っていました。これは、ドラえもんもよくないのです。すぐに「しょうがないなー」と秘密道具を出してしまうため、のび太は全然成長しないのだ…と授業中に批判(もちろんネタとして)することもありました。
しかし、いろいろな子を見て、またこの歳になって、生きかたとして「のび太」もありなのかな?と思えたのが本書でした。また、のび太はよく観察すると、本書の指摘通り、意外に正しく、ポジティブな生き方をしています。
例えば、「のび太の結婚前夜」というお話の中で、未来のお嫁さん・しずかちゃんがのび太と上手くやって行けるかと不安になります。しずかちゃんのお父さんは、そんなしずかちゃんに対し、
「のび太君を選んだ君の判断は正しかったと思うよ。あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことが出来る人だ。それがいちばん人間にとって大事なことなんだからね」
とアドバイスします。
確かにのび太はそういう面が強くあります。人を蹴落としても自分が前に出てやろうとか、他人の利をかすめ取ろうとか、そういう不正義をはたらくことがありません。本書の「のび太は悪口を言わない」という指摘もその通りで、他人の素晴らしい点を僻んだり中傷したりすることなく、「いいな」と素直に認め憧れることばかりです。肯定的に物事をとらえているからこそ、「ぼくもそうなりたい」「頑張るぞ」と思って行動するようになるのです。もっとも、これが長続きしないところにのび太がのび太である理由があるのですが(笑)
また、のび太は自分の力に最初から線引きをして、限界を定めてしまうことがありません。実にポジティヴです。単純と言えば単純なのですが、「こんなことは無理だ」「できないに決まっている」と行動しないことはあまり無いようです。つい憧れて直感を信じて行動に移してしまいます。もちろんそれが滑稽な場面も多々あるのですが、この行動力は成功者のパターンでもあります。
人の悪口を言わず、人の幸せを願い、不幸を悲しみ、自分の直感を信じて前向きに行動に移す。
これだけを取れば成功者の条件のような文言が並んでいます。しかし、これがのび太であることにホッとしますし、それが面白いところでもあります。
ある意味、無謀なところもありますから、何度も彼は失敗します。しかし、その度にドラえもんたちの助けを借りながらも、再チャレンジして行く姿は、失敗を極端に恐れる今の子達が学ぶべきことでしょう。それは、どんなにジャイアンにいじめられても、スネオに嫌味を言われても、のび太は不登校にはならないところからも答えの一端が見えるかもしれません。
厳しい現実を子どもに教えなければいけないとは思います。理想ばかり言っている場合でもありません。競争社会において、脱落はイコール敗北を意味する場合もあります。
しかしながら、人生において「負け」とは何ぞや、「勝ち」とは一体如何なることか…ということです。のび太的な生き方も、もっと評価されていいはずです。
「のび太という生きかた/横山泰行
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のび太という生きかた
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