JR九州が運行を発表した「ななつ星in九州」というクルーズトレイン。超豪華寝台特急はご記憶に新しいことと思います。九州全土を1泊2日~3泊4日と、様々なコースで巡る、新しい豪華寝台特急です。何より、費用が一人50万円以上もするというコースが話題を呼びました。中身を見てみると、確かに素晴らしいコースで、時間もゆったりと作られており、熟年夫婦の旅行にはもってこいの旅行商品であるようです。
この「ななつ星in九州」の列車をデザインしたのが、水戸岡鋭治という方です。この方、鉄道ファンなら誰しもが知る有名なデザイナーで、個性的な列車を多数走らせているJR九州の車両デザインをかなり多く手掛けて有名になりました。九州新幹線「つばめ」や、九州全土の特急列車、さらには通勤電車も手掛けています。関東の方は知らないかもしれませんが、九州のJRはとっても素晴らしい車両を走らせているのです。新幹線や通勤電車で天然木を使ったデザインの車両なんかが走っているんですよね…素晴らしいです。
ほか、話題を呼んだところと言えば、和歌山県の南海電鉄貴志川線が廃線対象となり、あとを引き継いだ第三セクター「和歌山電鐵」の車両のリニューアルデザイン。終点貴志駅の猫が駅長となって有名になりましたが、そこの「たま電車」「いちご電車」「おもちゃ電車」は全部彼のデザイン。富士急行の「富士登山電車」や、岡山電気軌道「MOMO」、富山地方鉄道の「アルプスエキスプレス」、北近畿タンゴ鉄道の「あおまつ」「あかまつ」「くろまつ」などなど、そのデザイン車両は全国津々浦々に走っています。すべて個性的な車両デザインで、特に内装などは度肝を抜かれるようなものが多く、一気にお客の心をつかんでしまいます。
その彼が、デザイン流儀を語るのがこの本「電車をデザインする仕事」です。元来鉄道マニアである私ですが、それよりもまず「電車をデザインする」という仕事をする彼にとても興味を持っていましたし、通常の鉄道車両とは大きく異なるアイデアを盛り込んでいる彼の感性は私を刺激しました。「一体どうしてこんなアイデアが浮かんでくるのだろう?」と。
その答えは、読み始めてすぐ、実は本文に至る前のはしがきの部分にありました。はしがきを読むだけで、私の疑問はすべて解消され、ここを読むだけで非常に価値のある本だったということになってしまいました。
彼の答えはこうです。
「私は、どうやってデザインを発想するのですかという質問をよく受けるけれども、『楽しかったことを思い出す』ようにしています」
これは、子育て・教育の面において、非常に重要な、そして非常に大きなヒントがある言葉です。
デザイナーにとって、発想の貧困さは致命傷です。幅広いアイデアを次から次へと湧出させていくには、彼は「楽しかった思い出」が必要だと言っているのです。確かに、幼い頃に幸せな体験を数多くしている人間は、大人になってからその体験を具現化することでビックリするようなものや、「人を幸せにするもの」を作り出すことが出来るでしょう。これは確かに幸せな体験を持ち合わせない人間は発想し得ないことなのかもしれません。
極端な話かもしれませんが、犯罪者の多くは、やはり恵まれない家庭環境だったり貧困な文化体験だったりと、何らかのマイナスの背景を持つようです。幸せな体験をしたことがないゆえに、何が幸せなのかをイメージすることが出来ないという傾向はあるのでしょうね。
この裏返しで、大人になって豊かな発想力を持って仕事をしていくためには、子どもの頃に数多くの文化的・知的体験を積み重ね、楽しいこと、嬉しいことを数多く体験することがとても大きなファクターになってくるということなのだと思います。
私も、「よくそんなこと思いつくね…」とか、「よくそんなことやっちゃうよね…」と褒められているのか呆れられているのか分からない時があります(笑)まぁ、自由な発想で、面白そうだと思うことをとっととやってしまうという癖は昔からあります。
が、振り返ってみると、それは確かに自分の幼い頃や若い頃の「楽しかった経験」を元に作られていることに気が付きます。
桜学舎の合宿も、私が中学生の頃に通っていた塾で出かけた養老渓谷への遠足の体験がもとになっているように感じますし、卒業ライブなんて大学時代の遺産(笑)、授業の内容だってそうですし、何よりお母様方にお話しする学校選びのコツや方針、基準などは、やはり楽しかった学生生活や、自分の親の教えだったり、そういうものがかなり大きな部分を占めていることは否めません。特に私の母親の教えはとても影響が大きいですね。でも、そういう体験や指針が明確に私の中にあるからこそ、自信を持ってお話しできるのでしょうし、まぁほぼ十中八九間違ったことを言っていないのではないかと思うのです。
お子さんが将来社会で活躍するには、決まりきったルーチンワークをこなすだけの人間にさせてはいけません。既に正解がある問題の答えを引き出すのは得意な「秀才クン」は、社会に出たら単なる「使えない奴」だったりするのは、自分の考えや新しい発想が無いからなのでしょう。前例主義の公務員になるのならともかく、一般企業ではちょっと適応能力に問題がありそうです。
発想力、いろいろな意味での「想像力」を働かせて、頭をフル回転させて考える仕事に就かねば、社会での活躍は見込めません。豊かな発想が出来るためには、豊かな学習体験と生活体験がその子の人格を形成していくのではないかと思います。
お子さんがどんな職業に就くかは分かりませんが、サラリーマンに限らないかも知れません。是非素敵な体験を、なるべく幼い時期にたくさんさせてあげて欲しいと思います。
【電車をデザインする仕事】
水戸岡鋭治/¥1500/日本能率協会マネジメントセンター
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