映像を使うわけ

 今や予備校は映像授業真っ盛り。

 でも、いろいろなところで書いている話ですが、私は15年以上も前に「映像授業」を使った塾をやっていました。理由は単純明快で、千葉の田舎でやっていたものですから講師が集まらなかったのです。全員を私が教えるわけにもいかないので、苦肉の策。ハンディカムで手元を写し、授業ビデオを撮ってテレビデオで見せるということをやっていました。当時は塾の先輩方から、「ビデオを見せてお金を取るなんて…」と批判されたものですが、今やどこも映像授業、映像授業です。私は時代の最先端を行っていたのだなぁと自負しています(という自画自賛!)
 
 映像を使うと言うと、意地悪く
「先生、楽したいだけでしょ?」
「人件費が浮きますね!」
と揶揄される方もいますが、それは的外れな批判です。世にそんな塾もあるのでしょうが、私が映像を使う理由は、第一に授業品質の均質化です。ある一定の授業レベルを担保したいのですが、生徒が増えればそれだけ講師を使うことになります。全員が均質な授業は出来るわけがありませんので、講師なりに味が出てきます。これがいい方に作用しているうちはいいのですが、そうでない方向に行った時が大変です。本来であれば全部私が教えたいのですが、身体は一つなので、映像化しておいて授業部分だけは均質なものを提供したいと思っているのです。
 
 もちろん、映像を見せるだけで成績は上がらないということを私は経験上知っています。ですから、どこまで映像に頼るかというのも考え抜きました。結論としては「解説授業まで」というのが私の持論。「講義」と「問題解説」は映像で十分です。問題演習と間違え直しやテスト、答案指導は生身の先生がやるべきですね。映像は使い方と授業の管理方法が命なのだということを知りました。

 さらに、見たことも会ったこともない先生が教えても上手くいかないというのも経験済みです。正直、高校生は映像予備校にも通うくらいですから大丈夫でしょうが、中高生はやはり知っている先生の授業が何より大事です。面白いものですが、知っている先生が出てくると、ライブ授業よりも集中して面白く聞いているフシもあります。

 また、面白い現象ですが、完璧な空間で演じるものは飽きる傾向にあります。素晴らしいのは間違いないのに、誰もNHK教育TV(Eテレ)で勉強する子がいないのは、それが原因。以前、大手予備校の映像授業をかじったこともありますが、教える側からすると感動的に面白い授業も、生徒からすると見事過ぎてつまらないわけです。映像の中の先生が馬鹿話もしたり、失敗もしたりしながら授業をしている必要があるのだと、つまり等身大である必要があるのだと経験上分かりました。2時間の演劇の舞台は集中して見られますが、日常的に舞台演出があるとキツい、そういうことなんでしょう。
 
 また、もうちょっと違う面もあります。学校の授業で一通り学んだもののうちの「不足」を補うのが本来の個別指導の役割です。学校について行けない、スピードが速くて置いて行かれてしまった、じっくりやりたい、そういうニーズにお応えしているものでした。しかし最近、全く知識がないまま塾に来る子が増えてきました。「それ学校で習ってない?」と聞いても、「さあ?」という子や、「聞いてませんでした」という子もいます。そこで改めて一から教える作業が始まるのですが、これが実は非常に手間取ります。特に、理科や社会は個別に講義する時間というのはとても非効率で無駄な作業になりがちです。ましてやマンツーマンで講義する意味はほとんどないとも言えます。
 
 さらに言えば、自分で聞き取り、授業を受けるという能力を磨くことが出来ませんので、永遠に個別指導塾へ通わないと授業について行けない子になってしまいがち。長期にわたる教育ビジョンが無い、付け焼刃的な対処療法に過ぎません。そもそも、個別指導を通して足りない部分を補い、学校の授業ペースについて行けるようにすることが本来の目的で、授業を受ける力を養成しなければその根本解決にもなりません。大人になってから細かく繰り返し教えてくれる先生などいないわけですから、どうも「そもそも君、間違ってるよ?」という子が増えている今、単に分からないところだけを補ってあげるだけではいけない気がしています。
 
 昔映像を使っていた際に、ある「出来ない子」がしみじみと言ったことがあります。「映像の先生は怒らないからいいよね」そうかぁ。もう15年以上前の子の生徒ですが、なかなか本質を突いた言葉だなぁと思っていまだに覚えています。そう、出来なくても怒る必要なんてないんですよね。繰り返せばいいだけ。でも人間だけに頼ると、やっぱりそこはそうなります。
 
 映像予備校は、私は好きではありませんが、映像を「利用」することには異論はありません。そしてこれから桜学舎もハイテク化します。生徒と関わる時間をもっと増やすためのハイテク化です。まだまだ進化していきます!

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