大人とはそもそも勝手なことを言うものです。もちろん子どもはそれ以上なんですが、だからと言って大人が理性的だったり、子どもに理解を示せるほど器が大きいかといえば、実際はそうでもないことが多いものです。やはり自分ごととなるとそれはより鮮明になります。
小さい頃、大人は子どもに夢を持ってもらいたいと言います。
「大きくなったら何になりたい?」
と聞くでしょう。子どもは自由です。電車の運転手、アイドル、サッカー選手、パン屋さん、ゲームクリエイターなどなど、いろいろなことを言います。小さい頃はそれも可愛いなぁと思うものです。しかし、中学生や高校生がどんな進路をとりたいのかと聞く際には、これらが全然変わってしまいます。
「声優になりたい」という子もいました。
「漫画家になりたい」という子も。
「アイドルになりたい」 「会社を経営したい」「音楽で食っていきたい」「作家になりたい」「ジャーナリストになりたい」、一番傑作だったのは「ミステリーハンターになりたい」なんていうのもありました。みんなマジメもマジメ、大真面目です。
しかし、
「そうか!頑張れ!応援するぞ!」
そんな親御さんは見たことがありません(笑)もちろん温度差はあります。「本人の好きなようにやらせます」という消極的賛成派もいれば、「絶対ダメ!」という強行派もいました。反対され、ひたすらダメ出しされていくと、たいていの子は諦めて「就職」をしていきます。まぁそれも受け入れた自分の判断なのだから仕方がないのかな?と思いますが、どちらかというと私は応援してしまう派なので、実は私の教え子には音楽で食っている子やその世界では有名な人になっているというような子もいます。ある子はどうやらメジャーデビューしたらしいのですが(笑)
「アイドルになるって言ってたの、どうした?」
なんて聞くこともありますが、やっぱりどこか「理性」が働き、「そうそうなれるもんじゃないからさ…」なんてしたり顔で言われてしまうと、何だか「指導者」としては複雑な気分になります。そもそも私も音楽で食っていきたいと思って30近くまで粘ったクチ。今考えれば無謀ですし、私にそんな大した才能があるわけでもないのですが、やってみなきゃ気が済まないし、やりたくなって夢中になってしまうタイプでした。誰でもなれるわけじゃないというところが魅力なわけですし、自分の世界が世間に認められることを夢見ることも大事じゃないかと思います。なにせ、大人たちは「夢を持て」と言ってたじゃないか!と言いたくなるのですね。
「夢は看護師です」
「医者になりたいです」
「弁護士を目指します」
「エンジニアになりたいです」
確かにそれも夢でしょう。でも、「声優」も「アイドル」も「社長」も「ジャーナリスト」も夢じゃないですか? でも、こっちの夢は「OK」で、そっちの夢は「ダメ」と言われるは理不尽な気がしますし、そういうケースが多いのは何故なんでだろうと考えると結論は一つ。それは「食っていけない可能性が高い」ということ、つまり結局親御さんは「就職してほしい」が先に立つのかな?と残念に思うのです。
もちろんですね、自分を切り売りするような商売・生き方は、挫折も多いし、一歩間違えば食っていけないことも多々あります。私も何度か挫折や失敗を繰り返しました。将来が不安になったこともあります。でも、「努力」は裏切らないし、そのための「勉強」も裏切りはないのだと分かりました。
「金儲けの上手い人は、無一文になっても、自分自身という財産を持っている」
というのは哲学者・アランの言葉ですが、まさにこういう生き方もあるんですね。自分自身に能力を身につけておけば、どんな逆境に出くわしても必ず這い上がることができます。だからこそ勉強はとても大事。自分がやりたいことがいわゆる「就職」でない人間は、他の人より勉強しなきゃダメなんだということは言えます。
「失敗したら、また翌日から屋台を引けばいいじゃないか」
というのは台湾の友人の言葉。そうか… 台湾や中国系の人たちの強さって、こういうところにあるんだろうなぁと思います。日本社会はこういう失敗や再起を受け入れないところもあるし、日本社会での「失敗」はその人自身の「終わり」だと受け止めてしまう人も多いでしょう。そういうリスクが高いように思ってしまう人も多いようですし、今の大学生などは特にその思いを強く持っています。「人生詰んだ」なんて言い方をするようですが、でもそれは受験競争、学歴ゲームが終わっただけで、人生が「詰む」わけではありません。自分に力をつけて、人より精神的にも文化的にも経済的にも豊かに生きることを目指せばいいだけです。
私の親友のマレーシア人は、私とほぼ同時期に同じように挫折を味わっています。だから私たちに強いシンパシーが生まれ、親友というべき友人になりました。その彼も挫折時代、本当に一からのやり直しをしていました。でも強かった。だから日本で、そしてマレーシアで会う度に「私も頑張らねば」という気持ちが強くなりました。力をつけておけばいくらでもやり直しができる、だからこそ失敗を恐れずに思い切り生きていけるのです。
ゆえに、勉強はしろ、自分自身の武器を手に入れておけと私は子供達に言います。芸能人がなかなかの学歴をお持ちなのも、かなり頭を使って仕事をしているんだろうと思うのです。
さて。
子どもたちに「夢を持て」という前に、一体どんな夢を持ってもらいたいと思っているか、それ、大人たちは想定していますか? 結局就職活動して、安定職について、結婚して、早々に家を建てて、子育てして、不自由なく暮らし、親の老後の面倒を見る、それが子どもの夢であってほしい… そんなことになってはいませんかね? そりゃ就活する、結婚する、家を建てる、子育てする、親の面倒を見る、どれ一つ取っても「偉業」です。何一つ満足に出来ない人間すらいるんですから、まず基本中の基本がきちんと出来ていることはとても立派なことですし、リスペクトすべきことです。
しかし、人と違う夢を見ることも、そして少ない可能性に賭けて全力で向かっていくことも、夢の一つだと思います。「そんな夢はダメだ」という根拠は、所詮「経済面」や「世間体」によるものでしかないことが殆どです。
迷わず行けよ。
行けばわかるさ。
尻込みしないで、思い切り努力のできる子を育てたいものだなぁと思う昨今です。
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