不確定要素

「こうすれば、こうなるはずだ」
ロジカルシンキングというのが一時期とても流行しました。論理的に考えるということですから、私たちも勉強をする上ではこの「論理的思考力」の重要性は訴えています。

この考え方が出来ないと困ることは多々あります。
時間の使い方などまさにそれで、「どう考えたって間に合うわけがないだろうよ?」というような宿題の履行状況の子どもなどには、「時間の使い方をもう少し筋道立てて考えてみなよ」と叱ることが多いものです。

単語テスト、漢字テストの部類も、家で練習していない、家で自分でテストしてみて全問正解できていない、自分でテストすらしてみていない、そんな状況なのに平気でテストを受験して、当然ボロボロの結果に凹む… 当たり前でしょう? 凹むなんてふざけてんのか? どう考えても合格するわけないでしょう?と叱ること多々。

「こうすれば、こうなるはずだ」
 という計画すら立てていないのに、期待以上の成果が出るわけがありません。当たり前ですよね。こういう部分には大いにこの「論理的思考」は使うべきなんです。

本題はここではありません!(笑)

この論理的思考は万能ではなくて、こと「子育て」「人間関係」においては、まったくもって役立たないというか、当てはまらないことが多々あるのです。これをわかっていないと、これまたとんでもないことになるのですね。

人間というものには、「こうすれば、こうなるはずだ」が通用しない場面がたくさんあります。例えば、「好きな女の子にたくさんプレゼントをすれば振り向いてくれるはずだ」とか、「私が公平に接していればみんな私に親切にしてくれるはずだ」とか、はたまた「一生懸命努力していれば夢が叶うはずだ」といったもの。

残念ながら好きな女の子に必死にアプローチしても全く振り向いてもらえないこともあれば(私はそんなんばっかでしたね!(笑))、みんなに公平に接していても「あいつは贔屓してる」「嫌な奴だ」と陰口を叩かれることもありますし、どんなに全てを投げ打って練習したってなかなか甲子園には行けないものです。いや、こういう方が多いでしょうね。

人間には「不確定要素」が多すぎるんです。そもそも人間自体が不確定要素の塊みたいなものなんです。だから、「こうすれば、こうなるはずだ」が通用しないことが多いんです。それが前提です。ところが、子育てにおいては、この「不確定要素」をきちんと含めるということを忘れている保護者がとても多いのです。私の見立てでは8割以上。自分の子は特別だと思ってしまうのかも知れませんが、残念ながら親子関係が悪くなったり、親子ゲンカが絶えなくなったりする原因はほとんどこの「不確定要素」を認知しているかしていないかに原因があると言ってもいいくらいなんです。

子供も人間ですから、勉強をしなければいけないことはわかっていても、どうしてもできない場面もあるんですね。塾の宿題が大量に残っているのに、どうしても勉強に向き合えない時期というのもあります。学校で悩みを抱えたり、行事や部活に夢中になってしまったり、下手をすると「なんとなく気力が出ない」なんてケースも多々あるものです。塾や外の人間は「客観的存在」ですから、「そんなこと知らんがな!」という立場を取るものです。立場上、なかなか「勉強できないこと」を認めるわけにはいきませんからね。

ただ、親御さんがその論理に絡め取られて、「何できちんと自分で決めたことが出来ないんだ!」「やることをやってからじゃなきゃ何もやらせないぞ!」下手をすると、「一体お前にいくらお金をかけていると思ってるんだ!やる気がないならやめちまえ!」なんて暴言を吐いたりすると最悪です。親子ゲンカどころか親子断絶。もちろん立場上言わざるをえないというのなら仕方ありませんし、明らかにサボり癖がついているなら怒鳴りつけてやればいいのですが、そうでない場合があります。

本人も忘れているわけでもなく、そもそもやる気がないわけでもない、でもなんとなく出来ない時もあるってことなんですね。その「不確定要素」の存在をあらかじめ織り込み済みで考えていれば、何度かお休みしようとサボろうが、そんなに慌てる必要もないのです。

今年も、5年生で全然勉強しなかった子が、6年生になって見違えるようにキッチリ勉強するようになったケースもあります。なんとなくペースが落ちたり、なんとなく手がつかない時に、ヤンヤヤンヤと攻め立てても、何の効果もないどころか逆にマイナスになってしまうことの方が多いものです。人間は、嫌になったり、疲れてしまったり、やる気がなくなったり、面倒くさくなったり、それでも急に思い直して頑張り始めたり、楽しくなってきたりと、予測のつかない起伏がある生き物です。

あらかじめそういうものだと思って、周囲が時にはぐっと飲み込んで見守ることも重要ですし、本人に考えさせたり選ばせたりすることも重要です。突っ走ることも、時には休むことも。

私は、数多くの人間を見てきました。
きっと、人間を見ることは好きなんでしょうね。
生徒として少なくとも延べ2000人くらいは見てきたでしょう。その他同業者も、異業種の方も、老いも若きも、いろいろな人と出会ってきました。その中での結論。
「人は不確定要素が多すぎる」

だから、方程式通りに人間が成長したり考えを進めていくことなんて「奇跡」に近いと考えています。

「こんなにお金をかけて塾通いさせているのに成績が伸びない」
というクレームを受ける塾は多いのだそうです。友人の塾でも時々あると聞きますし、某大手塾の元超有名講師の先生に先日お会いした際に「そういうのって怖いんだよー?」と聞きました(笑)

もちろん親御さんからすれば、中学受験塾の言うことを聞いて4年生から送り迎えしながら塾に通い、大変な宿題も子供と一緒にやり、高い授業料に加えて特訓だ、合宿だとお金をつぎ込んで、何でうちの子の偏差値はこんなに低いんだ?と文句の一つも言いたくなる気持ちは重々わかります。幸い、桜学舎ではそういう類のクレームを頂いた記憶が無いのですが、そう思いたくなる場面ももちろん親御さんにはあるでしょうね。

ただ、大手さんをかばう訳ではありませんが、やはり子どもであるということ、そして人間であるということから、やはりこの「不確定要素」がかなり働くんだということは含めて考えておかねばならないことです。

大人になっていくと、この要素はさらに大きくなりますよ ね。私の友人は、ある朝テレビを見ていたら、上司が頭を下げていたと言っていました。例の山一の倒産の時です。安定した大手企業だと思っていたら、あっけなく倒産したとか、リストラされたとか、こんなのはよく聞く話。逆に、高嶺の花だと思って諦めていた女性と相思相愛になったなんて話も聞きます。先日結婚した教え子は、一目惚れで池袋で声をかけた女性と結婚したのだそうです。彼女も声をかけられて、この人と付き合うかも…と思ったんだとか。人生は何が起こるかわかりません。

人生にはそういう「不確定要素」が多分に含まれているわけですから、できることなればこの要素を上手に、ポジティブに使っていくことが大切なのですが、もちろん相田みつをじゃありませんが、「人間だもの」という感覚で、ダメな時も当然あるということを想定しておかねばなりません。

その昔、ホリエモンが「想定の範囲内」という言葉をちょっと流行らせましたが、これだけは彼の「人間理解」の正しいところだと思います。彼は常に失敗した時の「余白」をちゃんと想定しています。何ていうんですか、リスクヘッジ?(笑)でも、そういう考え方は、実は論理的思考に加えておくべき大事な考え方だと思います。

なかなか上手にお伝えできないんですが、何となく分かっていただけますかね?

要は、人間なんだから、そう簡単には行かねぇんだよなぁ…
そういうところを子育てしている親御さんにも分かって欲しいんです。予定通りには行かないし、思った通りには子どもは育たないし、計画通りになんてことは進まないわけです。うまくいっているように見える子と比べると、我が子は何でああ育たないんだろう?と腹立たしく思うのでしょうが、やっぱりそこは人間なので、犬を躾けるようにも行きませんし、何せ自分の意志を持っている別人格ですから、そうそう上手くいきません。

それをある程度の「想定の範囲内」にソフトランディングさせるように誘導していくのが子育ての上手な方なのではないかなぁと最近強く感じます。ちょっとくらいの寄り道や遠回りは「想定」しておいて欲しいということでもありますし、それに過敏に反応しないほうがいいと思います。ダメな時期は、しばらくダメにさせておけばいいし、「人間だからそういう時期もあるよ」と理解を示す場面もある程度は必要じゃないかなと思います。もちろんそこに甘えてダメになっていくと困りますが。

私は、昔は相当なダメ人間でした(笑)え?今でも?(笑)
でも、ダメな経験をしたので、人間理解が進んだという思いもあります。昼間の地方競馬場でギャンブルばかりしていたこともありますし、職に困って迷った時期もあります。毎晩のように飲み歩いてグデングデンになっていたこともあります(それが今では一滴も飲まないのですから!)そんな中で、金もないのにオケラの私に酒を奢ろうとするオッサンや、仕事についての持論をひたすら語ってくる酔っ払い、変な人たちにもたくさん出会いました(笑)でも、皆意外に優しいんですよ。みんな弱い部分を持っているから、知っているから。

私も、そういう時期を経験して、やはり人間は理想通りには行かない、ダメになってしまう時期もあるってことを身をもって体験した気がします。こういう時期は、自分でもどうしていいか分かんないんですよね。「こうすれば、こうなるはずだ」なんて、誰でもわかってるんです。でも、それが出来ない自分がいる。それを待てないのは他人ですが、親は待たなきゃいけないんですね。

もちろん、そこから抜け出さねばダメだということも私は学びましたが、やっぱり少し時間がかかりました。私の親は、そういう生き迷っている私に何も言いませんでした。さぞかし心配だったと思いますが、説教された記憶もありませんでした。ただ、信じて黙って見ていてくれただけです。今考えると本当にありがたい両親だと思います。やんやと攻め立てられ、毎日のように説教されていたら、私は今こんなではなかったと思います。

人間は不確定要素の塊。
でも、だから面白い。
子育ても、そこまで達観できるとかなり楽しいのだと思います。 
大変ですけどね(笑) 

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