ご馳走オジさん

ある日の晩。帰りがけ。
 
ふと、教え子の女の子の講師に、
「最近オマエはどうなん?」
と声をかけました。
 
「良かった、聞いてもらえて」
という返答に、
「?」

いつもなら、割とスッと早めに帰る子だったので、あまりダラダラ残ってるのも好きじゃないんだろうと思って、いつもサラッと送り出していたのですが、話しかけたら実はずっと聞いてもらえなかったのが寂しかったようですし、何せ大人でしっかりした子なので、私たちが忙しそうにしているのでどうも随分と遠慮をしていたようです。
 
聞けば、いろいろ悩みもあって、迷っていることもあったりして、ちょっと前は爆発しそうだったとのこと。内容はふんふんと聞いていたのですが、そのうち友達の話になり、家族の話になり、気づけば小一時間立ち話。

しかもその間、意外にも周囲の講師も帰らないでみんなで頷いていたり、真剣に聞き耳を立てていたり(笑)
 
「いいんだよ、帰っていいんだよ、遠慮すんなよ。勤務時間終わってんだからね!」
と言いつつ、誰も帰らない不思議な時間でした。
 
でも、何となく申し訳ない気持ちになりました。

夏期講習で私たち自身もフル授業でヘトヘトになり、生徒数が増えた分また父母対応も多くなり、もちろん生徒対応もしなきゃ!と思っていて、さらには塾組合の相談会の仕事を任されたりして頭がいっぱいになったり、弟のお店のこと、そして家族のことが重なり、その反動でグッタリしてしまったり… そう、はたから見たら「先生たち、大変そうだ」と思ってしまうのでしょうね。確かに大変なんですが、遠慮することもないのに。
 
その子は、今夏私たちと少しだけ時期を違えて、スタッフ同士で同じ場所へ旅行してきたそうですが、そのバスや電車の中でも、先生たちと話をしてないということを言っていたのだとか。話したいけど、私たちもう生徒じゃないし、講師の立場で時間を割かせてもいけないし…って。

気を使わせてしまったなぁと、何となく切なくなりました。だから、なんだか一生懸命話してしまった感じもします。
 
「そういや、オマエは呑兵衛行ったことないよな?」

なんとなくいつもタイミングが悪くて、あんな常連の呑兵衛にも、こんなに長くいるのに行ったことがない子。周りのスタッフからも、「ああ、そりゃだめだ!」なんてからかわれる始末(笑)

うん、今度、ひとまず呑兵衛だな。とお約束。
「やった!」
そうなのか。そういう反応なのか。おっさんと呑兵衛行く女子大生の反応は、「やった!」なのか。なんだか娘と飲みに行く約束をした父の気持ちが分かったような瞬間でした。

でも、もう本当、何だか、申し訳ないなぁ。
もう一度、スタッフにもよく目をかけることが大事だと認識しました。

「私の友達の間では、うちの塾のバイトはかなりいいって話題になってるんですよ」「羨ましいって言われてます」「かなりホワイトってか、透明です!」

いやぁ、まだまだ正確に言うとダメなところもあるし、ちゃんとやりきれてないところもあるんです。やってあげたいこともたくさんあるんですが、それでもそんな風に言ってくれるというのは、他所がもっと厳しいのかなぁ?(笑) それでも正直、昨今言われつつある労働問題で突っ込まれないかと、いろいろ本を読んだり対策をして不備がないように心がけていたり。最近では飲みに誘うだけでも「パワハラだ」なんて言われる時代だそうですし、「最近どう?」って聞くだけで「プライバシーに立ち入るな」と言われるんだそうですよ。ハラスメントだと騒ぎ立てるハラスメント、「ハラハラ社員」が会社をつぶす時代だと言われていますよね。

そんなこんなで、おっさんに「飲みに行くか?」なんて言われて、「断れない…」「面倒臭い…」って思わせるのも嫌なので、最近は以前に比べてそういう機会も減っていましたが、考えを少しだけ改めても良さそうですね。そんなに遠慮してたなんて、申し訳ない。
 
また少し、ご馳走オジさんするかなぁ(笑)

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