勉強をマニュアル化してはいけない

 勉強というのは、本来、自分の知的好奇心から行う行動で、「調べる」「考える」「教えを請う」などの行為から行われるべきもの。だから、必ず能動的で、建設的で、積極的なものであるはずなのです。勉強の本質がそこにあるのですから、人から与えられたり、考えなかったり、単純な判断基準で仕分けをするような行為は勉強ではありません。

 ところが、最近はどうも「マニュアル化」された勉強が、勉強の「コツ」であるかのように捉えられ、重宝がられて、そのマニュアルを高精度に運用出来る人間が「成績優秀な人間」「頭のいい人間」であるかのような勘違いされたエリート観が一人歩きしているように思います。

 マニュアル化された勉強とは、例えば、「大学入試センター試験の数学で、√があった場合、0~9のうち0、1、4、8、9 はない。2,3,5,6,7 のいずれかである」とか、「国語の選択肢で言い切ってる表現は不正解」などというものです。確かに分析するとそうなのかもしれないし、制限時間内に効率よく問題を解く上では有効なテクニックなのかも知れません。

 しかし、問題点がいくつかあります。まず、マニュアル化は何故するのかという問題。勉強に限らず、飲食店でも、機械の操作でも、マニュアル化するということは、その本質や仕組み、理由などが全く分からなくても、とりあえず均質な「運用が出来る」ということが目的です。つまり、頭が働いていなくても、中身が分かっていなくても、マニュアルさえ忠実に運用出来れば成績が上がったり入試に合格したりすることになります。これって、果たして勉強なのでしょうか? 果たして我が国の若者が血眼になってやるべきことなのでしょうか?

 そして、この情報(というか学習内容)が果たして将来にわたって使える知識なのかという問題。「国語の選択肢で言い切ってる表現は不正解」などということは、入試が終われば何の役にも立たない内容。こんなものに時間と能力を費やすのは無駄なのではないかと思います。

 この学習のマニュアル化を進めたのは、ある意味我が業界「学習塾」「予備校」であると言っても間違いではないでしょう。「受験テクニック」だと言って、マニュアル化を進め、本質は分からなくても入試合格という結果さえ得られればいい、そんな考えが広まって行きました。

 確かにこのテクニックで救われた人間もいるでしょうし、すべてマニュアル化が悪であるとは思いません。しかし、今や、このテクニックを学校教育の場に持ち込み、受験指導や進学指導に使われているというのですから本末転倒もいいところ。

 数年前、地元の中学校の英語・関係代名詞の授業で、「(  )の後ろにisがあったらwho」と教えている先生がいて、私は激怒した記憶があります。これは関係代名詞の仕組みが一応分かって、でも最後の、それこそテクニックとしてこう覚えておくと得をすることがある…という話でするもの。ところがこれをメインの授業で使ってしまったものですから、子どもたちは関係代名詞とは何ぞや?というところから全く分かっていない状態だったのです。

 予備校に感化されている高校も同様です。予備校テクニックは、学習の本質を理解し、ある一定のレベルに達している子にはとても有効です。かつ面白いのです。しかし、残念ながらある一定のレベル以下の子には全く持って無意味。というか理解すら出来ないものなのです。一定のレベル以下の生徒たちに必要なのは、そんなテクニックではなく、学習の本質。成績上位の子は勝手に知的好奇心を発揮しますが、彼らはそうじゃない。それをテクニックで点数をとらせようとしても、当然限界がありますし、そもそも本人たちは何をやっているのか分からないので大混乱します。そんなものは勉強ではありません。

 ですから、予備校メソッドの導入を前面に出し、大学入試対策が万全であるかの如く謳う学校には大いなる疑問を持たざるを得ません。というか、そもそもの矛盾がそこには存在します。つまり、予備校メソッドを最大限利用できるような生徒が在籍する学校は、そもそも予備校を学校内に招き入れてはいません。生徒たちはかなり自由にそれぞれ勉強しています。麻布・開成・武蔵などは本当に放任主義です。それでも生徒たちは勉強します。

 予備校メソッドを学校内に取り入れているところほど、生徒たちはそれについていけないことが多く、上手に運用されている学校は私の知る限りごくわずかです。もちろんどの学校でも成果の上がっている生徒はいます。しかしながら予備校メソッドでは、生徒全員の、学校全体の学力の底上げにはなりません。何故なら、予備校メソッドはそういう目的で作られたものではないからです。入学試験をうまく「かわす」テクニックであり、学習や勉強の本質を学ぶ方法論ではないのだと思います。

 もちろん、親御さんも考えるべきことが多いものです。今中高生をお持ちの保護者は、多少の差はあるでしょうが「予備校世代」です。そうですね、40代後半から50代前半の10歳あたりですね。三大予備校が一番盛り上がった時期です。Yゼミ全盛期と言ってもいいでしょう。私もそうでした。

 現代は、あんな大らかな、楽しい予備校時代ではありません。今は、歌を歌う先生も、紙吹雪を撒く先生も、金ぴか先生もいません。「今でしょ?」の先生の授業は全てDVDで観ることになりますし、そもそも予備校に講師が存在せず、画面がズラっと並ぶ方式が主流です。予備校システムが入っているから安心…とばかりは言えないのが実際。そんなことより、そもそもの学力底上げが重要なのですよね。

 マニュアル化されたら、もうそれは勉強ではありません。考え、本質を理解させ、学ぶって面白い、知らないことを知るのは楽しい!と、そう思わせることが勉強には必要ですし、今の教育の最も足りないのはそれだと思います。

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