聞く耳を持つ

 「あの頃、先生に言われたこと、今頃分かるようになりました」

 先日、ある教え子からこんなことを言われました。
 相当やんちゃな子で、なかなか私の言うことも聞いてくれない子でしたが、それでも塾には懐き、ねえ先生…と、いろいろ私のところに話にくる子でした。いろいろ話した記憶がありますが、その陰でコソコソと悪さ(笑)もしていたのを、私は知っています。でも、まぁ、人の道を外れるようなことはしませんでしたので、なるべく彼の理解者になってあげるべく接していたものです。

 そんな彼も立派な大人になり、時々会ったり、SNSで連絡を取ったりすることがありますが、ふと言われたんですね。冒頭の言葉。

 逆に、私も何だかいろんなことが悟れた気がします。
 つまり、人間、「聞く耳を持つ時と、全然聞く耳を持っていない時期がある」ということです。だから同じことでも、そのタイミングで、その年齢で、その成長過程で、注意や忠言を聞き入れる能力があるかないかをちゃんと考えながら生徒を諭して行かないと、いくらこっちが正しいことを言っていても、響かないし伝わらないんだろうなぁ…と。そして、それは「時期」がかなり左右するんだろうなぁと。

 だから、やはり血気盛んな若い頃は、なかなか聞いてもらえないことも多いものです。親御さんの話等全く聞かない反抗期ですから、他人の話も半分程度しか聞いていないでしょう。でも、そこであきらめて何も言わなくなったら本当に終わり。うるせーなー、はいはい… そういわれても、一応言っておくこと、教えておくこと、伝えておくことが何より重要なのだと実感しました。

 だって、いい年になってから「今頃分かるようになりました」と言われるのですから。言っておかねば永遠に分かってもらえなかったかも知れませんものね。でも、そんなこと言ったかなぁ…なんてことなのですがね(笑)まぁ、大抵教える側というのはそんなものです。

 30代の頃。私はなぜか、不良と呼ばれる生徒たちに慕われることが多くありました。もちろん、そういう子ですから長続きはしません。基本的に学校でどんな評価であれ、私との約束が守れれば塾には入れますが、私との約束が守れなくなったら退塾させます。他の生徒と同じく扱います。残念ながら私に叱られてやめて行った子もいます。しかし、そんな子が、町のファミレスで「先生!」と声をかけてくれたことがありました。

 「先生、やっぱ、オレ、あのあと考え直して、全然大したことないところだけど、今大学行ってます」

 こう、わざわざ私たちの席にまで来て報告してくれたのは、何だか胸が熱くなりました。若い頃は反発もあるし、大人が馬鹿に見えるし、自分にはスゴい能力があると勘違いします。しかし、だからと言って大人が遠慮して子どもを諭さなかったら、一体誰が「教育」するんでしょうかね。

 20代でも「どんだけガキなんだよ…」「誰かがなんとかしてくれるとか思ってんなよ?」みたいな「大人こども」がたくさんいますね。ゆとりちゃんだとか、バカだとか言うのは簡単ですが、そんな彼らと話してみると、彼らの中に「大人」がいないことが多いんですね。苦言を呈してくれる大人、諭してくれる大人、ガキの理屈をぶっ潰すほどの理知的な大人、本気で向き合ってくれた大人が、残念ながらいなかったという子が「ガキ」として大人になって行くのかなぁ…とか思ったりします。実は、ある意味不幸なことだし、ある意味可哀想だったりします。いい大人に巡り会えてなかったんだなぁと。

 私たちになんて、出来ることは本当にごくわずかです。
 でも、お預かりしたお子さんには、一人の大人として、ダメなことはダメ、いいことはいいと、正しい価値判断で接することが出来る大人でいたいものです。どうぞご理解とご協力を頂けたら幸いです。 

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