塾・予備校の再編が進んでいるという朝日新聞の記事。業界の人間は大体わかっていることですが、
四谷大塚=東進ハイスクール
SAPIX=代々木ゼミナール
東京個別指導学院=ベネッセ
という図式はもう常識かもしれません。小さな買収やM&Aは限りなく行われていて、あそこは学研、あそこはZ会…なんてものが多数あります。私の友人でも、大手に自塾を売却して大きな資金を手に入れ、また新しく自分の塾をやっている方も知っています。確かに、個人塾や怪しい業者も多い混沌とした業界ですので、再編が進み、しっかりとしたものになって行くのであれば、それはそれでいいことなのかもしれません。
ただ、この記事の中で、とても気になる部分がありました。それは、
「いかに優秀な生徒を集め合格実績を上げていくかが、競争に勝ち抜くカギになる。そこで有望な生徒を多数抱える中高受験の学習塾との統合が進む」
というところ。はたして、そうなのか?(笑)
つまり、受験ビジネスの基本構造はほとんど昭和の昔から変わらないということなのですね。
私たちの時代から、大手の予備校は最上位の高校には特待生を乱発し、優秀な学校の生徒は基本的に予備校は無料でした。塾・予備校の広告塔になる代わりに費用は免除されるという、ギブアンドテイクの関係が成り立っていたのでしょう。そして看板講師は皆上位クラスに配置されるわけです。
桜学舎が「優秀だから料金免除」という制度を持たないのは、これが私達がやるべきことではないと思っているからです。その子のお月謝は、その子の指導のために使いたい。ゆえに、「永年無料」で生徒を集めることはしません(もちろん、一時的なキャンペーンなどは別ですが…)
ただ、「優秀な生徒を集め合格実績を上げていく」という発想も、これまた大手さんの発想、一般的な発想だなぁと思います。では、優秀ではない子が上位を目指したり、学習で困った子が再起を目指す場合はどうしたらいいのでしょうか? この記事の通りだとすれば、優秀な子を獲得することが塾の生き残りを左右するということになり、裏返せば「出来ない子」はどうでもいい子、もしくは「お客様」ということになります。もちろん、「それなりの指導をしておけば文句は出ないだろう」「お客が満足すればいいんじゃないか?」という意見もあるでしょうが、そこは桜学舎はどうしても「それでいいのかなぁ?」と考え込んでしまう訳です。
奇しくも、今日テストに来ていた子と帰りがけにあれこれとお話をしていたところ、実は小学校の頃に1年ほど、誰もが知る有名な塾に通っていたのだそうです。
「へぇ、そうだったんだ!」
と言うと、
「あのころはサボってたなぁ…」
とカミングアウト。オマエなぁ…と笑って聞いていましたが、「別に、ボケっとしていても時間は過ぎる」「呼ばないと先生は来ないからサボれる」「時間間に合わないから今日は行かない!」「行かなくてもバレない」などなど、まぁ出てくる出てくる(笑) そうなんだ、普通、そんなもん? と聞くと、そんなもんじゃないですか?という返事。
「じゃ、桜学舎はすごくマジメだね」
と投げかけると、
「そうですよ!塾に現れないと、10分で家に電話がかかってくるなんて、困りますよ!」
と。そうなの!?
「時間間違えてるんじゃないか?」「途中で事故に遭ってるんじゃないか?」「勉強や塾が嫌になって逃避行してないか?」「最近悩んでないか?」「先生のこと嫌いになっちゃったのかな?」 たった10分遅刻するだけでも、私たちはあれやこれやと考えます。しれっと遅刻してくると、「よかった!」と思います。「勝手に来ない生徒が悪い」なんて考えることはありません。
そうなんだ。そんなもんなんだ…
優秀な子ばかりを集めて、通り一遍の授業をしたり、ただ見事なまでのスーパースター講師の授業を提供していればいい塾ならば、どんなに楽なことでしょう。でも、桜学舎は、そんな優秀な子から、普通の子、そして勉強について行けなくて困っている子まで、様々な子がいます。そんな子をどうやって指導していくかを考えたら、優秀な子をたくさん集めて生き残るという発想はなくなるはずです。だいたい、優秀じゃない子は、一体どこで勉強したらいいのでしょう? どこで再起を図ったらいいのでしょう?
「今、教育ビジネスって、少子化で大変なんでしょう?」
「塾も斜陽産業なんでしょう?」
そんなご指摘は、桜学舎にとっては全く「別世界」のお話のように聞こえます。きっと需要もマーケットも異なるのでしょうね。大きい塾さんはそれなりに大変なんだとは分かりましたが、勉強に躓いたり、困ったりしている方が助けを求められる場所はもっと違う場所にあるのかも知れませんね。
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受験ビジネス、大再編時代 大手予備校が有力学習塾買収
朝日新聞デジタル 2015年8月28日
http://www.asahi.com/articles/ASH8R01LPH8QULFA00T.html?ref=nmail
受験ビジネス業界が大再編時代に入っている。中学から大学受験まで対応する「垂直展開」を狙い、大手予備校が、有力学習塾買収に動いているからだ。少子化で受験生は減るが、1人の子どもに注がれる教育費はむしろ増加傾向。これを逃すまいという取り組みが続いている。
難関大学受験で定評のある通信教育「Z会」を展開する増進会出版社(静岡県長泉町)は今月1日、学習塾最大手の栄光ホールディングス(HD)へのTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表した。買収総額は約137億円だ。
売上高が約190億円の増進会にとって大きな「賭け」だが、受験生の減少で、10年間で売上高が1割超減ったことが背中を押した。栄光HDは約430教室、約6万6千人の生徒を抱える。増進会の藤井孝昭社長は「リアルな教室を持つ栄光は魅力的だ。通信と融合させたい」と話す。
文部科学省によると、大学・短大の受験者はピーク時に比べ4割減った。大学受験生を相手にする予備校や通信講座は生き残りに必死だ。いかに優秀な生徒を集め合格実績を上げていくかが、競争に勝ち抜くカギになる。そこで有望な生徒を多数抱える中高受験の学習塾との統合が進む。
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