長年お疲れ様でした

友人、などとはとても申し上げられない、大先輩と言うべき塾長先生が、今年度限りで塾を閉めるという決断をされたようです。在塾生への説明のタイムリミットもあるでしょう。いろいろお考えになっての決断だと思います。まずは、35年の長きに渡るご活躍、お疲れ様でした。

先生とは、千葉の塾の組合で行われた合同の講師研修会があり、その際、国語科の指導についての「講師」としてペアを組んだところからご縁がありました。最初は何処の奴だろう?くらいに思っていらっしゃったのではないかと思いますが(笑)、意外にも、と言っては失礼ですが、指導方針や考え方がとても合致していて、そこからいろいろお話をさせて頂くようになりました。マレーシアへよく行かれるというところでも共通の話題があり、そのご縁で一緒に学童保育のNPO法人立ち上げの際に理事として名前を連ねたこともありました。

私も10年前、千葉で運営していた学習塾を結婚を理由に突然閉鎖し、東京へ拠点を移しました。ちょうど入試が終わるか終わらないかのこんな時期に発表をした記憶があります。ボロ泣きした生徒から電話がかかって来たり、父母が飛び込んで来たり、それはそれは大変だった記憶が蘇って来ました。

この時代ですから、Facebookで閉鎖を伝える記事を書かれていましたが、卒業生と思われる方々から数多くのコメントが寄せられていたのですが、 これがまた、本当に私の10年前を思い出させるものばかり。「先生には勉強以外のこともたくさん教わった」「塾は自分の一番の思い出だ」「塾があって今の自分がある」などなど… 本当に自分と同じように(と言ってはまたまた大変おこがましいのですが)生徒に向き合って、本音でぶつかって、いろんなことを教えて来られたのだなぁと思いますし、それを大きな思い出や経験として育っている卒業生がたくさんいるんだなぁと思うと、何とも閉鎖は残念でなりません。

もちろん、始まりがあれば終わりがあるものです。
これからは少しゆっくりのんびりお過ごしになるのか、もしくはご夫婦で一緒にやられるための選択と集中の作戦なのかは分かりませんが、何だかいずれ自分のところにもやってくる問題なのかなと、ふと我々も夫婦で考えてしまいました。

世はフランチャイズの塾や大手の有名なシステマチックな塾が全盛。街の「先生」は苦戦の時代です。資本を投下し、底引き網のように生徒をかき集め、儲からなければその地域を去っていくような教室運営をされている塾も多々見受けられます。資本主義社会ですし企業ですから、決してそれが悪いとは言いませんが、それでもやはりその地域には「街の先生」がいて、学校教育とはまた違った「私教育」「地域教育」的な立場で、受験勉強を前面に出しつつも、実は生き方や人生、時には恋愛やら政治的なものの見方、職業観や知的好奇心なんてものをいろいろ教えてくれたものです。そういう先生がそこここにいたんですね。

この大先輩はまさにそういう先生だったと思うし、私たちも実はそういう存在であるからこそ、存在価値があるのだと思っています。子ども達にとって「利害関係のない大人」というのはとても大きな存在です。もちろん、アクの強い存在ですから、私なんか好きな人もいるかわりに嫌いな人もいるんだと思います(笑)ですが、やっぱりそういう、子供たちに真正面から向き合って、正論を吐き続けられるような大人が街のあちこちに存在していないというのは、ちょっと健全ではないような気がしています。街の塾というのは、そして塾長と言われるような人は、きっとそういう塾、人なんじゃないかなぁと思います。

大手塾に勤める方々、いわゆる職員と言われる方々からは、教え子の結婚式に呼ばれたとか、就職の相談に乗ったとか、家族の問題で大変だったなどという話は滅多に聞きません。「それは塾の仕事じゃない」と、生徒も先生も住み分けているんでしょうね。でも街の塾の先生って、みんなあるんです。これが。いろんな相談を持ち込まれたり、結婚相手を連れて来たり、下手するとご家庭の問題まで相談を受けたり、首を突っ込まねばならないことまであるんです。私も何度かありました(笑)自分で何をしてるんだろうと思ったこともありますが(笑)、それでも生徒が困っていれば、そういうこともあるんですね。

そういう先生をまた一人失うのは、損失だなぁと思ったりします。同時に、そういう先生の後継や後輩を作っていけているのだろうか?という、少し若い世代の我々も大いに振り返るべきことなのかなぁと思っています。

私も、若い頃は自分の仕事を成功させることだけで精一杯でした。人の世話する前に、自分のことちゃんとやれよって、自分に言い聞かせて来た部分も多々あります。しかし、最近、塾の組合のお役目を頂戴してから、この「小さな塾」の業界の未来や、若い世代の育成という、業界全体のことも時々考えてしまうようになりました。やっぱり若い世代がこういう「街の塾」の世界を理解して、飛び込んで来てくれないと、将来自分で街に塾を開こうなんて人がいなくなってしまうのではないか、塾とは受験勉強を効率良く教えるだけの「商売」になってしまうのではないか… つまり成績を販売する業者になってしまうのではないかと思うこともあります。

そうではない志の人が、街に小さな塾を開ける、自分の思った通りの指導を通じて、子供たちに真正面から向き合っていく大人が増えていく、そういう「草の根運動」的な塾が存在できる世の中であって欲しいと、私は思っています。

「大先輩の分も」などと言ったら本当におこがましいのですが、でも向いている方角は同じだと私は思っているので、35周年を超えられるよう、私も頑張って行きます。桜学舎はまだまだ20周年の若造ですから。

長い間お疲れ様でした。そしていろいろ学ばせて頂きました。ありがとうございました。
もうお会いしないわけじゃないので(笑)、また中華の宴会でお会いできるのを楽しみにしてます。 

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