https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message31_03.html
東京大学の入学式で、上野千鶴子氏が述べた祝辞が話題になっていますね。東京医科大学の不正入試問題やフェミニズム、女性差別など、なかなかセンセーショナルな話題に触れたことが大きなニュースとなり、様々な方々賛辞を述べたり批判をしたりと、ネット上では結構大騒ぎになったように思います。
Twitterなどでよく見かけたのは、「がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています」というくだり。これから晴れやかに入学する若者に対して最低な言い草だ…という批判を随分と見かけました。一瞬、「そんなこと言ったの?」と私も顔をしかめましたが、いや、それは全文を読まないとわからない話。
最近、いろんな思想の持ち主が、いろいろな意図を持って発言の「切り取り」を行い、あたかも自分たちの主張が正しいように扇動するケースが見られます。残念ながら、信頼の置けるであろう「マスコミ」においてさえ、不都合な発言や不都合な事件は「報道の自由」ならぬ「報道しない自由」を発動し、恣意的な報道がなされるケースも多々見られます。昨今の新聞離れはそれが一端。ビックリすることに、ウチの専任社員5家庭7名中、新聞をとっている家は0。そりゃ新聞折込チラシを見て来る人いないよね…という時代です(笑)
ネットなんて完全に切り取りの世界であり、誰がどう発信しているのも自由。私がココで書いているブログだって、信用出来るか出来ないかなんて読者のお考えにお任せするしかないのです。
ちょっとずれました(笑)
ということで、ちゃんと全部読んだ上で、「文脈」を把握した上で言わないとな、と思って検索したところ、ちゃんと東京大学のHPに全文が掲載されていました。読むと、私は実に納得。言葉の使い方が上野氏独特の「ちょっと尖った」感じになっているので、誤解をされたり、批判的なイメージで捉えられてしまったのだろうと思いますが、上野氏の意図するところはそこではないということが分かりました。
このくだりの後ろに、「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。」とあります。そう、これは教育者が発すべき言葉だと思いますよ。何でもかんでも自分が可愛い、自分のために、そう生きている人は結果的に成功しないものです。
商売の世界でも常に言われるのは「他利」ということ。他利が大成功すると自分の利益になるのです。それが商売というもの。人を騙したり、上手く売りつけたりすることは商売にはならないものです。
女性差別やフェミニズムについては私と考えが異なる部分もありますが、でもおっしゃりたいことはほぼ同意出来ます。大学入試、学力競争までは「公平」な競争ですが、その先は努力したからと言って報われる世界ではありません。それが「社会」というもの。極端な話、就職活動において、採用枠が1名。学力は高いが性格がキツく、協調性があまりない、でも仕事は出来そうという人と、学力はそこそこ、でも温和で協調性抜群。仕事はこれから教えるという人の2択になった場合、能力が優れているから前者を採用しなければならないという根拠はどこにもありません。好きな方を採用すればいいわけで、そこには「私のほうが能力が上なのに!」という差別を訴えたところで仕方ない部分があります。
イケメンの方を採用する。カワイイ方を採用する。温和な人を採用する。
たとえそうだったとしても、「フン!」と腹立てたり、そんな会社はいずれ潰れると憎まれ口を叩いてやるくらいはいいでしょうが、誰を採用するかは会社の自由でしょう。
最近では男女を指定しての募集活動ってしてはいけない事になっているのですよね。だから本当は女性職員を募集しているのに、女性募集と書くと叱られます。男性が来ても採用には至らないのに、そうは言えない部分があります。申し訳ないなぁと思っても、制度は制度なので違反は出来ません。
そう見ると、決して努力すれば何もかもが公正に評価されるわけではない社会が待っているというのは、上野氏の言う通りです。間違っていません。ただ、それを氏がフェミニストであるがゆえに批判的な物言いと捉えられてしまったのかな?と思ったのです。そうではなく、そういう社会が広がっているから、その中でもがいている弱者にも目を向けられるような「俯瞰力」を持って学問に勤しんでほしいという、そういう意味でこの言葉を発したと私は解釈しました。そして、そうであるならば、実に筋の通った素晴らしい祝辞だなぁという感想を持ちました。
塾業界でも私は同じような思いを持っています。
どこの塾も、中学受験だと言えば、麻布だ、開成だ、武蔵だ、女子学院だ、桜蔭だ、雙葉だと。
こっちの塾が合格者が多かった、いやこの学校ならこっちの勝ちだと。
結構なことですが、そうではない子はどうしたらいいの?という話。そんな高いところを目指さないと中学受験をする価値はないのか? 開成の合格数で塾の良し悪しを語るのか? 偏差値の高い子が「いい子」なのか? そもそもみんながみんな、トップレベルの学校を目指す必要があるのか? 偏差値の低い学校は行く価値がないのか? だいたい、勉強がなかなか出来ない子は一体どうしたらいいのか!?
出来る子。
トップレベルの子。
ある意味、勝ち組の子。
そうではない子に私達は目を向け、のびのびと、楽しく、知的好奇心を持って、中高でもゆっくり伸びていける学校を探しながら受験をするという「ゆる中学受験」を提唱しながら塾を運営しています。
それは高校受験でも大学受験でも同じこと。
もともと完成している人なんて、別に塾に来る必要も、ましてや桜学舎に来る必要なんてありません。でも、ちょっと何か躓いている時に、「励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめて」(←上野氏の言葉の中にあります)あげたいと思っているのです。
この祝辞を読んで、皆さんはいかがお思いでしょうか。
私には、いろいろ思うところも多く、また勉強になった祝辞でした。
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